肩線・ショルダーライン
撫で肩(ローショルダー)
標準的な人の肩傾斜となる角度22~23度よりも、
傾斜角度の多い体型のことで、「下がり肩」とも
いわれるもの。
既製スーツはすべて標準的な肩線となる「並み肩」で
作られているため、オーダースーツの製作時に
補正の対象となることもあります。
ただ、あまり「撫で肩」に作りすぎたジャケットは、
着づらいといわれることが多いため、その量については
注意が必要。
女性的な肩傾斜に見られることも多い「撫で肩」なので、
それを嫌う人は、ジャケットの肩パッドの厚みを増すなど
して、「並み肩」に近づけるなどの工夫をすることがあります。
また、ローショルダーには、あえて「撫で肩」に見えるように
誇張したデザインのことをいう場合もあります。
「撫で肩」の反対は「怒り肩」。
アメリカンショルダー
19世紀の末にアメリカで流行した肩巾の広いジャケット
やコートのシルエットのこと。
裁断や肩パッド、場合によっては肩章(エポーレット)を
付けるなどして肩巾を誇張するブロードショルダーや、
ワイドショルダーと同義で、アメリカンショルダーは、
主にイギリスで使われる呼び方になります。
ブロードには肩巾が広いという意味があり、タイトスーツ
の肩巾となるナロー(狭い)ショルダーとは対語。
アメリカンショルダーのような広い肩巾のジャケットには、
標準では衿巾も広めなものがセットされ、タイトスーツには
ナローラペルと呼ばれる、狭めの衿巾がセットされます。
ロープドショルダー
背広の肩線の1種。 肩先にロープ(縄)が入っているような感じに見える、また、そうしたつくりになった肩線のこと。肩先が盛り上がっているのが特徴。ヨーロピアン、特にイタリアのジャケットによく見られた。ビルトアップショルダーと同じ。
袖付けを標準的な肩先点よりも内側とすることで、袖山を肩にかぶせ、芯を入れるなどして、肩先が盛り上がったように見えるように構築された肩線で、その盛り上がった肩先の部分がロープのようにも見えることから、こう呼ばれる。
このロープド・ショルダー、ビルドアップ・ショルダーは狭めの肩幅からゆとりのあるイングリッシュ・ドレープを生み出し、ウエストシェイプから長めの裾へかけてフレアするドレッシーなブリティッシュ調スーツのシルエットにも見られるもの。
ビルトアップ・ショルダー
背広の肩線の1種。 詰め物として、袖山を高く盛り上げた肩線のこと。”ロープドショルダー”とも呼ばれる。
メンズスーツにおいてのビルド・アップ・ショルダーは、1930年~40年代のイングリッシュ・ドレープの肩線に見られるもの。イングリッシュ・ドレープは、パッドを入れて肩線を強調し、ゆったりとした胸まわりから、ウエストでフィット、長めの着丈にかけてドレッシーなシルエットを構築。
Pitty Savile Rowでご提案しているブリティッシュ・スーツも、このイングリッシュ・ドレープのシルエットが基本。肩線から、5ミリ程度盛り上がった袖付けのビルド・アップ・ショルダーを特徴とし、バックスタイルは英国調Xライン。フロントカットは、前裾を大きくカッティングされた専用のカッタウェイ・フロントとなります。
パッテッドショルダー
背広の肩線の1種。 ナチュラルショルダーとは正反対にパッドを厚く入れて、広く高く張らせた肩線のことをいう。
パッドをその流行の肩線を構築するための付属として使用するもの。
ショルダー・ラインの流行によって、角張ったもの(スクエア・ショルダー)としたり、丸みのある肩線にしたりなど、パッドの厚みや形状にもさまざまなものがある。
ハイショルダーはパッド厚を厚く入れることで、怒り肩風に見せる肩線。コンケーブショルダーは肩先を高くし、肩線の中央部ををくぼんだ弓なりに見せるショルダーライン。
ナローショルダー
「狭い肩」の意で、このスタイルを特徴とするアイビーモデルの背広の代名詞とされているもの。ナロー&ナチュラルショルダーという言い方もある。
「ナロー」が「狭い」という意味を持つ言葉なため、ナローラインといえば、細いシルエット、スリムシルエットと同じ意味となる。
基本的には、アイビー・リーグ・モデルのジャケットがそうであるように、狭い肩幅のジャケットには、狭い衿巾(ナローラペル)がセットされることが多い。(肩巾が広ければ、衿巾も広くなるのがセオリー)
また、ナローショルダーという場合、肩巾そのものが狭いものの他、袖付けを標準的な肩先点(ショルダーポイント)よりも内側につけることで、肩巾をより狭く見せるものを含む。
ナチュラルショルダー
背広の肩線の1種。 「自然型」と呼ばれるほど、パッドもあまり使われない、誇張のない感じのもの。トラディショナルショルダーモデルといわれるくらいに、この肩線を特徴としている。近頃ではアンスーツの影響もあり、なおいっそう自然な感じが強調されている。
ナチュラルショルダーといわれる肩線には2種類のものがあり、ひとつは、標準的な肩先点(ショルダーポイント)から袖付けをすることによて生まれる自然な肩線のこと。肩先点の外側で袖付けをするドロップショルダーに対して使われることが多い。
もうひとつは、前述のような、肩パッドなどを極力省き、自然な肩線となるように構築された軽い仕立て感のもので、カジュアル感覚のジャケットなどに多く見られるもの。
また、ナチュラルショルダーは、狭い衿巾、ウエストダーツなしのずん胴シルエット、細身パンツを特徴とするアイビー・リーグ・モデルのジャケットの肩線としても有名。
ドロップショルダー
背広の肩線の1種。 全体に丸みがあり、肩先が落ちた感じのもの。以前コンチネンタルモデルの背広によく見られた肩線である。
厳密には、袖付けを肩先点(ショルダーポイント)よりも外側、腕側に落とした(ドロップ)位置につけることで、丸みを帯びた優しいショルダーラインとなる。
袖付けを若干腕側に落とすことで、肩巾を広く見せることができるため、ゆったり着用したカジュアルジャケットや、胸ダーツを省き、ずん胴にルーズな着こなしをするトラッドとの相性も良い。
アイビースーツの特徴的な肩線であるナチュラルショルダーは、ドロップショルダーが肩先点よりも落とした袖付けをするのに対して、自然な肩先点を通るショルダーラインという意味がある。
テーラードショルダー
テーラードは「男もの仕立ての」を意味する言葉。
したがってさまざまな背広の肩線を総称して用いる。日本では注文服に見られるような肩先が美しく張り、微妙なカーブを描いた肩線のこともこう呼んでいる。
テーラードといえば、メンズスーツ的には「注文服」「オーダーメイドの服」というような意味に実際に使用され、使われているが、本来は前述の「男もの仕立ての」とか「しっかりした仕立ての」というような意味合いの言葉で、多くの服飾用語では、女目線で使われることが多い。
「テーラード・スーツ」は、男性のスーツのようなしっかりとした生地で仕立てられた男もの仕立ての女性用スーツ。「テーラード・スリーブ」は、男もの仕立てに見られる、カフスが付かず、袖先を開きみせとした二枚袖の袖仕様ということになる。
ソフト・ビッグ・ショルダー
流行のビッグショルダー(大きな作りの肩)を、ただワイルドだけではなく、ソフトなイメージに仕上げたもの。いわばビッグショルダーの修正版といえる流行肩。
単にソフト・ショルダーという場合、ソフトなシルエットで形成される柔らかな肩線をいい、「肩パッドを入れない」「軽い着心地とするため、肩パッドも極端に少なくする」など、メンズのカジュアルジャケットに多く見られるショルダーライン。
オーダースーツ的にソフトなイメージを出すためには、肩先と袖付けの境を平らにおさえてしまう、一般的に「袖付けを割る」というような縫製方法もある。袖付け位置を通常より外側とする、ドロップショルダーなども見た目、丸型となるソフトなシルエットとなる。
ショルダー・ライン
肩線、なかでも背広ジャケットのそれを総称する。 肩線は背広全体のシルエットを決定付ける大切な要素である。多くのモデル(型)は肩線を見れば、容易に想像がつくともいえる。ナチュラルショルダー、ナロー・ショルダーはトラディショナル型を、コンケーブ・ショルダーラインはヨーロッパ型の背広をそれぞれ代表している。
この肩線は、ネックポイントとショルダーポイント(肩先点)を結ぶ線で、前身頃と後身頃の境目となるジャケットの厚みの中央に位置する線。このネックポイントと肩先点が描く線の形は、肩先にに入れるパッド厚を薄くしたり、厚くしたり、また袖付け位置の調整(標準よりネックポイント寄りまたは、落として)、裁断、カッティングで構成される。
※標準の肩先点より内側に入れ、パッド厚で調整されたものをビルドアップ・ショルダー、標準の肩先点より外側に落としたものを、ドロップ・ショルダーという。
※コンケーブ・ショルダー
コンケーブは<くぼみ、くぼんだ>などの意味で、コンケーブ・ショルダーはくぼんだ肩、つまり肩先を高くして肩線の中央部がくぼんだ弓なりの肩線のこと。
サドル・ショルダー
ラグランスリーブのように見えるセーターの肩スタイル。実際それと同じ作り方になっているが、特にセーターなどニットウエアに用いる言葉である。
厳密には、ラグランスリーブの肩部分が、名前の由来ともなっているサドル(鞍)をかけたように見える形となっていることから、サドル・ショルダーと呼ばれる。シルエットはラグラン・ショルダーのやや角張った形をしており、そのためサドル・ラグランとも呼ばれることがある。
一般的なラグラン・ショルダーは、衿ぐりから脇下にかけて斜めに切り替えた一枚袖のことになるが、サドル・ショルダーは作りは同じものの、この斜めに見える切り替えが肩線と平行している点が大きく異なる。
ラグランコートで有名なラグランは、19世紀にクリミア戦争で活躍したラグラン将軍の名前から。
コンケーブド・ショルダー
背広の肩線(ショルダーライン)の1種。 全体に湾曲し、袖山で盛り上がったもの。ヨーロピアン調の背広に見られる。コンケーブとは「凹型の、中くぼの、くぼんだ」の意味である。
コンケーブ・ショルダーはパゴダ・ショルダーと同じで、1979年に、フランスのデザイナー、ピエール・カルダンが発表したもの。
パゴダは仏塔を意味し、パゴダ・ショルダーはその仏塔の屋根の反り返りをイメージして作られたショルダーライン。
ピエール・カルダンは1992年ファッション・モード界で初めてフランスの国立学術団体(アカデミー・フランセーズ)会員に選ばれている。
ウイング・ショルダー
肩先にちょうど翼(ウイング)のような張り出しのついた肩デザイン。肩を強調するファッション傾向から生まれたファンシーディテールのひとつで、鳥の翼のように肩先がやや上向きに張り出した肩のラインをしており、レディーススーツのジャケットやブルゾンによく用いられる。
ファッション用語として使用される「ウイング」には、シャツのウイング・カラー、ネクタイのウイング・タイ、靴のウイング・チップなどがある。
どれもが「鳥の翼のような」がモチーフで、「ウイング・カラー」は、衿後ろが立ち衿、フロントのカラーの部分が鳥の翼のように開いたオープンカラー的な形のもの。また、メンズのフォーマルシャツに多く見られる、立ち衿で衿の剣先部分のみ小さく三角に折り返った衿型をしたものも、ウイング・カラーと呼ばれる。
ソフト・ショルダー・モデル
アメリカントラディショナル型の背広の肩線の新しい呼び方で、ナチュラルショルダーのこと。ヨーロピアン調の影響などから、トラディショナル型の背広も衿幅が広く、全体にシェープドされているが、それに合わせた肩線のことをいう。現代のトラディショナルモデルの主流となっている。
肩パッドの量を極力少なくすることで、自然な肩のラインに沿わせる、ショルダーラインを誇張しないシルエット。ブリティッシュ・スタイルや、イタリアン・スタイルに比べ、着やすさを重視したアメリカン・スタイルの代表的な肩線といえる。
アイビー・リーグ・モデル、アイビールックのスーツ、ブルックス・ブラザースに見られるアメトラ、ナンバーワンサックスーツ(Ⅰ型スーツ)のショルダーラインに見られる。
また、単に主にメンズのカジュアルジャケットに見られる、肩パッドなし若しくは極力少ない肩パッドを使用した、ソフトな(柔らかな)やさしい肩線のことをいう。